これまでとこれから(のお店)で変わらないものは?とおおつぼさんに尋ねたところから、私は地下へと引きずりこまれたようだ。暗い地中から「おおつぼしげと」の根っこをもとめ、モグラの嗅覚で掘りかえし、ようやく “たましいみたいなもの” とぶつかった。ふだん接するなかで漠然とその存在を感じることはあったけど、今回のもぐりでは、本人とともに「これは、おおつぼしげと の原型らしいね」と確認し合った。それが、ものとものとの出会いの話だった。おおつぼさんがお店をやるというとき、何かを選ぶ、参加するというときには、いつもその根底に “新しい出会いかた”という可能性や期待をみているのだろうと思う。移転についてのインタビューを続けます。
今度のお店では具体的には何をしようと考えていますか?
大坪「今度移転する予定の物件は築35年の古びたテナントです。10坪のテナントが5軒ひとつづきに並んでいます。現在はすべての店舗が閉じていていわゆるシャッター通り。僕はこのひとつ続きのテナントを一体として、街角の良い風景を作りたいなと考えています。そのために今仲間を募って準備を進めているところ。今の僕にとっては、仲間と一緒に何かをするということがとても大切なことなのです。」
千年一日はその場所で何をしますか?
大坪「とりあえず僕は2軒のテナントを借りて珈琲焙煎所と本屋をやります。焙煎所では豆の販売を中心に喫茶スペースは4席ぐらい、となりの本屋は、古本と新刊本そして音盤を扱うセレクトショップになります。本屋でもコーヒーを飲める場を作るつもりですが、あくまでも珈琲焙煎所と本屋です。決してブック・カフェじゃありません。」
以前、おおつぼさんは、店っていうのは街であり、文化的なメディアだと言っていました。仲間とつくろうとしている街角がどんなものになるのか。千年一日としては『脱カフェ』の意志がはっきりあるようです。そして本屋さんをはじめる。ほかにこれまでとどう変わるのか、障害者の働く場のことやせらくんのことを聞いていきます。
現在のお店をはじめた動機の一つとして、障害者の働く場をつくる、というのがあったと思います。その思いは変わってませんか?
大坪「そこは少しかわってきたような気がします。もちろん、今度のお店でも、せらくんに珈琲豆のハンドピックの仕事をつづけてもらいます。いずれせらくんがアパートを借りて一人暮らしをはじめられればいいなと思っています。でも障害者の働く場をつくろうという意識は以前ほど強くありません。それを目的にすることは考えていません。4年前に千年一日珈琲焙煎所をはじめるときには障害者の働く場づくりという動機が必要でした。それがなければ僕はこの一歩を踏み出すことはなかったと思う。でも今となってはそのことを大上段に構えるのではなくもっとあたりまえのこととして考えられるようになりました。」